
[1,The Warrior]
どこまでもうっすらと白い光が揺れていた。
彼女はいつもその底で、硬質にすきとおった石のような質感の、一番奥まった場所に座っている。
そして視線を動かして、私を見る。そのたびに、とても悲しそうな、なんとも言えない目をするのだ。
嘆いているのだろうか、私が何も知らないことを。いくら私の目をのぞきこんで私の奥底をさぐっても、何も見つけられないことを。
彼女を喜ばせるために、私はこの身に何も持ってはいない。私が持っているのはただ――彼女を守らなければならないという使命感だけなのだ。
そのことはどうしてこんなにも、私を不安にさせるのだろう。
いてもたってもいられず、私は彼女に近づき、その手を取った。
「立ってください、私の女神。そうでないと私はあなたの前にひざまづけない」
私は彼女の、笑った顔が、とても見たい。
そうなれば、その表情はきっと、私の奥に誰かの影を探すような色などなくして、ただ私だけをやわらかく包んでくれるだろう。
おそらく、そうなることはないだろうが。
私は彼女の前にただひざまづき続け、彼女はただ、ここでなはいどこか遠くを見つめ続ける。いくら私が彼女の手を取ろうとも、いくら彼女を見上げようとも、彼女がこの私そのものを頼みにしてくれる日は来ないのだ、きっと。
だが、あえて言わねばなるまい。何度でも繰り返そう、私の言葉が彼女の存在のよすがとなるかも知れぬならば。
私は彼女の裳裾に口づけて、小さな声で誓いをたてる。
「――私は何度生まれてきても、必ずあなたを思い出すだろう」
*
[2,The Devout]
どこまで走っても草木はそよがず、風はなく、暑くも寒くもない。
生きているものの気配の全くない単調なこの世界で、俺は、今追っているあなたが唯一の生き物であるかのような錯覚におちいる。
歩を進めるたびに、背中の弓が、腰の剣が、がちゃりがちゃりと音をたてる。足に土埃がまとわりつく。何か底知れぬ闇のようなものが、あるいは後方のはるか彼方から迫ってくるものが、俺を追いたてているような気がする。俺は足を速め、あなたの後姿に少しでも近付こうと、――だが近づきすぎないように、あなたの後ろをいつでも守れる距離を保って、あなたを追い続ける。
あなたはわかっている、俺がずっと後ろについてきていることを。そして、すっと背筋を伸ばしたまま、まっすぐに姿勢よく進んでいく。
振り返らない。振り返らなくていい。
あなたは俺のことなんか気にかけることなく、光の射す方へ、希望の方へ、未来につながる道を、その厳しい美しさでいろどられた荒れ野の道を、どこまでも迷わずに進んでくれ。
知らなくていい。俺は何も知らないままでいい。
あなたが彼方を見据えている限り、俺はあなたを追い続け、俺があなたを追い続ける限り、あなたは俺を導くだろう。
まわりの景色に色はない。
けれど俺は、どれほどあなたに後れをとろうとも、道の先で光を灯すあなたの背中を見失わない、絶対に。あなたの背を守り続けることができる距離から離れず、手を伸ばそうともあなたの背に触れない距離を保って、俺はあなたの盾のかわりにでもなれることがあれば、それで良い。
イミテーションを一体、あなたはまた、切り捨てた。俺は追いついて、とどめをさす。返す刃で、後ろに迫ってきていたもう一体を弾いた。今度はあなたが飛びこんできて、そいつを地面にたたきつける。すぐに戦闘は終わり、俺たちはそれぞれの武器をしまいながら視線を交わした。
「フリオニール、君がいてくれて良かった」
そう言ってくれるあなたの口元が微笑の形を作ろうとすると、どうしてなんだろうか、俺にはそれが、触れれば壊れてしまいそうなあやうさを孕むように見えて仕方ない。手を伸ばせばあなたがすきとおった欠片になって崩れていってしまいそうな、そんな幻想に俺は取りつかれているのだ。ずっと。この、透明なものなどあなたしかない世界で。
だから。
振り向かないでくれ、まっすぐに進み続けてくれ。俺が手をのばしても触れない距離の、その先の道を。あくまでもまっすぐに、迷いなく、抜き身の剣を携えたまま、俺の極星でありつづけてくれ。
そう祈りながら、俺は再びあなたの後ろを追う、あなたは再び前に向かって歩を進めていく。
――俺は何度生まれ変わっても、必ずあなたの背を守るだろう。
*
[3,The Diviness]
どこまで続くのかわからない茫洋とした白っぽい空間に、気づけば私はいつも座っていて、自分の裳裾を見つめている。
そして、何度も繰り返している。繰り返している、のだろう。おそらく、その戦士との対面を。
そのたびに、きっと私は、せっぱつまったような表情をしているに違いない。
どうしても、無意識のうちに探してしまうのだ。誰かの影を。大切だったことしか覚えていないひとの、その表情を。忘れてしまったその声を。彼はそのひとではないのに。私がそのひとを思い出してもなんの意味もないのに。
どうしてこんなにも、彼の姿は私の胸をしめあげるのだろう。
私に近づき、私の手を取り、彼のものでしかない声で、私を守ると言う。
「ひざまづきなさい、私の戦士。そうでないと私はあなたを抱きしめられない」
私はその戦士に、微笑むことをいつか覚えてほしい。とても。
そうなれば、その顔はきっと、はるか昔に私が失った、なにか大切なもののあたたかさを映しとるだろう。そして私のこころに、小さな火を灯してくれるだろう。
――いつか彼には得てほしい、戦士として前に進み続ける勇気を、そして、どこまでも支えてくれる大切な人を。
きっとそのころになれば、彼の眼は迷いなく、進むべき道を見つけ、それを見据えているだろう。
今はまだ。未だ戦士はその姿を定めたばかりで、己を知らず、その奥に眠っているのであろう私の探し人は目を覚ますことなく、ただ、私を見上げて私だけにすがっている。
彼はひざまづく。私を見上げ、まぶしそうに目を細める。そして声を、求めている。生まれたばかりの子供のように。
何度でも繰り返そう。伝えなければならない、私の言葉が彼の存在を確かなものにするのならば。
私は彼の頭を抱きしめ、そっとささやきかける。
「――私は何度生まれなおしても、必ずあなたを覚えているでしょう」