そして僕らは、隣りあって眠る。
僕はこの子供の、怯えたように見開かれた目がすいこまれるような睡りに落ちていき、
しばらくして怖い夢を見ているのか身を縮めてしゃくりあげ、すこし涙を流し、
―それがおさまって再び寝息がおだやかになるのを確かめてから、
そのベッドの足もとの床に身を横たえる、暗黒騎士の鎧のまま。
夜半、僕は夢を見て目を覚ました、何の夢だったのかは思い出せなかった。
なんとなく、ずっと霧の中を歩いていったその果てに、自分の忌むべき漆黒の剣が何かを貫いた、柔らかいものを暗闇に染めてしまって、視界のすべてが赤く色づいていく、そんな印象と妙に生々しい手ごたえが残る、そんな夢だった。
もしかすると僕はうなされていたのかもしれない、のどがひどく渇いていて額に嫌な汗がにじんでいて、空気は冷えているのにやたらと体が熱かった。
でも僕は起き上がってはいけない、朝がくるまで身動きしてはいけない、僕が動けば死の臭いのする甲冑の音が立つ、夜が下ろした穏やかな眠りの膜を破ってしまう、隣で眠る子供を怯えさせてしまう。
藍色にうっすらと明るい窓のほうに意識を向ける。ぐにゃぐにゃしていた視界が形を取り戻していき、床の固さがしんと背中に伝わってくる。自分に言い聞かせる。―落ちつけ、落ちつけ、息を整えろ。
突然、目の前にそっと子供の顔が現れた、ベッドの上から僕をのぞきこんでいるのだろう。
夜の中でその顔はよく見えない、じっと僕を見ている、ふわふわした細い髪もゆれているようだ。
きっとその目には真っ黒い、まわりの闇と同化した、無機質な鎧のカタマリが映っているんだと思う。
(僕はきっと未来永劫その小さな子供の大きな目を見返すことのできないまま
僕はおそらくその小さな子供が大人になるまでその人生を奪い続けて
僕は絶対にその小さな子供を守り続けて赦されることなどない)
子供はベッドの上で、すぴ、と鼻をすするとごそごそ体の向きを変えた。
僕の見上げる角度からは彼女の姿が消えて、かわりに僕の手に上からそっと、小さな手が重ねられた。
僕はおびえてしまう、びくりと恐れを感じてしまう、この身の穢れが手を伝って、この子を喰いつくしやしないだろうか、ただひとつ僕が奪わずにすんだこの子の命まで傷つけてしまわないだろうかと。
でも僕は。今度こそ。これからずっと。この子を一人にしないこと。命の限り守り抜くこと。
せめて、それだけは。それだけが、僕の進むべき茨道。
ためらいながら、そっと、握った。少し震えているちいさな手を。
(子供の手は、なんてやわらかくて熱いんだろう)
ベッドの上で、子供はぐすぐすと鼻をすすっていたが、じきに静かになった。
…怖い夢は、見ないだろうか。
僕のこの手は汚辱にまみれ
剣柄の形になじみ、闇にそまり
傷をつけても噴きだす血はきっとどす黒く
固く冷たく、聖なるものを拒むようにできてしまっているけど、彼女は掴んだままでいてくれるだろうか。
夜の空気は静かに冷え、この体が横たわる石の床は固い。
砂漠を渡る風は魔物の熱を運んでいるだろう。
―そして僕らは、手をつないで眠る。