「行ってらっしゃい、セリス。いつでも帰ってきてね」
腕を伸ばして抱きしめて、ティナはセリスを旅に送り出した。
それは世界がふたたび緑に覆われ始めてから数ヶ月後のことで、モブリズの村の出入り口でのことで、周りにはティナをママと慕う子どもたちが取り囲んでいた。お互い腰のあたりに子供団子をくっつけたまま、これからどこに向かうのか、何をして過ごすのか、伝え合う。慌ただしい別れの挨拶だったが、笑顔と、手の暖かさとで、互いへの思いは伝わった。
僅かなあいだ、二人はともに過ごした。
ティナが飛空艇を降りたとき、セリスも共に来たのだった。
モブリズで過ごしたひと月の間、セリスは慣れぬ子どもたちの世話をするためティナを手伝い、ときには畑の雑草を抜き、魚を釣った。夜には、子どもたちの寝顔を一人ひとり確かめてほっと息をつき、静かにお茶を淹れてティナをテーブルに誘った。
そうして過ごすうちに、セリスは度に出る決意を固め、ティナは送り出す心の準備を進めた。
手紙を書くわね、とお互いに言い、ハグしあった。便箋を準備して見せあい、可愛らしい柄だわ、と言って笑いあった。
そうして大人は――大人とはいってもやっと成人を越したばかりなのだが――ティナひとりになった。
ディーンとカタリーナが赤子の世話をするのを手伝って襁褓を干したり、りんごをすりおろしたり、人参を柔らかく煮てつぶしたり。子どもたちの鼻をかんでやったり、ボタンを下までかけられたのを褒めてやったり。そんなことをしているうちに、いつの間にか時間が経っている。セリスからの便りが来ないだろうか、他の仲間からの連絡はないだろうかと、時々思い出しては、「ママー」と呼ぶ声に忙殺された。
セリスがいたときは、それでも夜になれば二人でお茶をのんで一息つき、ぽつぽつと今日の出来事など話しあうことがあった。
今、ティナはひとりだ。子どもたちがいても、飛空艇に乗っていた頃の話ができる相手はいない。
子どもたちの相手をして、食料を自給して、ときどきやってくるかつての仲間からの手紙にゆっくりと返信する。
そんなことをしているうちに、1年あまり経っていた。
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セリスへ、ティナより
ねえセリス、出すあてのない手紙を書きます。
あなたは今、どこにいるのかしら? ちゃんとご飯を食べている? 誰かと会ったりした?
わたしは最近、エドガーから手紙を受け取ったのよ。フィガロの城門に、はじめて電灯が灯るんですって。それを見に来ないか? というお誘いだったわ。返事は、今から書くのよ。久しぶりに出かけて、自分の足で歩いて、海を渡って、フィガロまで行くのは、きっと素晴らしいわね。
電灯って、どんなものかしら? フィガロの城門には、以前見たときは、瓦斯灯が点っていたわよね。あれよりも眩いんだと、エドガーは書いていたわ。どんな光をともすのかしら? きっと鋭くてあかるい、白いひかり。
あなたはどんな光に照らされて歩いているのかしら。北を示す星座というのがあるのよね? 見間違えずに、方向を違えることなく、進んでいけるに違いないわ。だってあなたは、ひとりでもみんなを探しに立ち上がったひと。みんなを探して、みつけて、世界を救う気持ちを燃え上がらせることができたんだもの。きっとあなたはどこに行っても、探しているものを見つけることができるわ。
秋月の祝福がありますように。その光が、あなたの行手を照らしますように。
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