別館「滄ノ蒼」

03

 
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 ロックへ、レイチェルより
 あなたがこれを読んでいるということは、きっと私はもうこの世にいないのね。
 以前話したわよね? 私はフェニックスに蘇らされたから、その魔導の力がなくなれば魂が消えます、って。
 きっとその時が近いのだと思います。私の体から、力が抜けていっているの。ついさっき、北西の『塔』のほうで、『裁きの光』よりもずっと大きな光と音がしたわ。それを合図に、急激に魔導の力があちこちから消えていっている。そう感じるの。
 だから、急いでこれを書くことにしたわ。ロック、私の大切なひと、あなたはもう、私から解放されるときを迎えているのよ。
 
 ねえロック、あなたにはきっと、ずっと愛してるひとがいた。だって私に恋していなかったでしょう? 私を抱きよせることも、愛しいと言うこともなかったでしょう? 新年を迎えたあの日の祭りで、周りに囃し立てられて私にキスをしたし、笑いかけてくれたけど、あなたは私に恋してはいなかった。私を愛そうとしてくれたけど、心に嘘はつけないでいたのよ。
 いつか、空を見上げていたことがあったわよね。大きな音がして、何か大きな鳥のような影が過ぎ去っていったあと。あなたは窓の外をじいっと見上げていたわ。何、どうしたの? と私が聞けば、「飛空艇だ」とだけあなたは答えた。
 『飛空艇』というものが何かって、私は聞けなかった。……だから、調べたの。教えてくれる人はいたわ、空を飛ぶ船で、空の魔物や地を壊す龍や、きっと『裁きの光』の大もとを倒しにいくひとたちだって。そして、仲間を探して回っているって。
 あなたはいつか、あれに乗りにいくのね。ああでも私はそれを見送れない。もう、魂が消えるから。
 私がいなくなっても、あなたは悲しまなくて良いのよ。だって前から知っていたでしょう? 私に恋していないでしょう? だからどうか私を足枷にしないで。思う通りに生きて、心のままに場所やひとを愛してほしいの。
 春風の祝福がありますように。日の光が、あなたの行先を照らしますように。
 あなたはどうか、自由に。
 いってらっしゃい。
 
 
 
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