
「ばあちゃんがさ」
薪オーブンに火を入れながら、ロックは言った。
「よく言ってた。見るのはいいけど、後ろで手を組んでなさい、って。俺、しょっちゅうばあちゃんの周りをうろちょろしては手元をのぞきこむ子供だったからさ」
ちいさなロックがオーブンをのぞきこむ姿を想像し、くすりと笑って、セリスは応える。
「おばあちゃん? って、お父上のか?」
「うん、親父のお袋さんだな。俺、わりとしょっ中、ばあちゃんの所に預けられてたんだけどさ。親父もトレジャーハンターだったから」
「さびしかった?」
「そんなに。……そりゃ、親父と一緒にいるときと違って、屋根の上に登ったりしたら叱られたけど。可愛がってもらったし」
「そう」
「煮込み料理の作り方も薪オーブンの使い方も、ばあちゃんの横にくっついて見てたってわけ。スープなんかは、ほら、こうやってさ」
手際よくオーブンの火をかきたてると、ロックは寸胴鍋を上にのせて水を注ぐ。鳥ガラや野菜くずを投げ込んで、スープを煮立てるつもりなのだ。
「あの、ロック」
「なに?」
「あの。……おばあちゃん、って、お父上やお母上とは違うもの、だろうか?」
「そりゃそうだろ」
「なぜ?」
「……なんで、って? そりゃ親父とお袋は親だし、って、違うか……なんていうんだろ?」
うーん、と上を向いて、ロックは考え込んだ。ことことと煮立ち始めたスープの、対流する薬草の茎を、つついて沈める。
「……親父がさ。結構厳しくて」
「? そうか」
「火の起こし方とか、何回もやらされたし、ナイフの持ち方を間違えたら首根っこ掴まれたりしたんだよな。でも、そんなおっかない親父が、ばあちゃんには敵わないわけ」
「かなわない?」
「小柄なばあちゃんが、親父を叱りとばしたりするんだよ。親父、ちっちゃくなってたりして。ああこの人、親父のかーちゃんなんだなあ、って。不思議な感じがした」
「不思議……」
「うん」
親の、さらに親なわけじゃん、とロックは言った。
「血のつながりがあるって、お互いそう知ってて、でも、よそのうちの人で、言う事とか親とちょっと違ってて、ずっと歳が離れてて、可愛がってくれる人」
(……いいなあ)
楽しそうに、懐かしそうに、祖母の話をする横顔を、セリスはそっと盗み見た。
良い思い出なのだろう。叱られたことも繰り言を向けられたこともあるだろうが、褒めてくれたり寝かしつけてくれたり、料理や編物を作るところを見せてくれたり、絵本を読んでくれたりしたのだ、きっと。
(……はかせ)
セリスにとってそんなひとは、シド博士ひとりだった。褒めてくれて、ずっと歳が離れていて、可愛がってくれるひと。膝の上は暖かく、広くて、安心した気持ちになったものだった。そうだ、きっとあの人は、
(おじいちゃん? ……それとも、おとうさん……?)
父、と言ってもセリスにはピンと来なかった。実父は帝国軍の士官だったらしいが、記憶にはほとんどない。どんなことをしてもらったのかも覚えていなかった。父親との記憶を語ってくれたのはティナだったが、幻獣であったそのひととティナの間柄とシドとセリスの間柄は、等号では結ばれない気がした。
(おとうさん、いいえ……おじいちゃん)
シドの膝の上は暖かく広くて、安心だった。植物の育て方を教えてくれたし、絵本を読んでもらったこともある。夜中に目が覚めて研究室に入り込めば、仕方ないのうと抱き上げてベッドまで連れて行って、寝かしつけてくれた。そんな記憶がある。
(おじいちゃん)
シドとセリスに血の繋がりはないけど。きっとシドはセリスにとって、それなのだ。
(2022.7)