
夜が来る。
夜が来る。
砂だらけの地平線のむこうにまるい太陽が沈むたびに、しんと冷えていく沙漠の城のてっぺんには、一人の青年があらわれる。
彼が統べるこの国が静かに眠り始める時刻に到っても、その髪は中天高い陽の色をとどめていて、宵の色を帯びた涼しい風にさらりとなびく。
青年はまわりに誰もいないのを確かめると、大切そうにポケットから小さなまるいものを取りだし、投げ上げた。
ひそやかな音をたててはじかれたコインは、沙漠の残照にかがやきながら、数秒間の空中散歩を終えて、手の中に舞い降りてくる。
きらきら、きらきら。
結果は「表」。そう最初から決まっているコイン投げ。
何度くり返しても、同じ。
きらきら、きらきら。
(あのとき落ちてきたコインがもし、表だとわかっていなかったなら)
きっと自分は怯えきって、目をそらしていただろう。青年はそう思う。
自分にすでに附属した、あるいはマントの後ろあたりにぶら下がるであろう栄誉を、いっそ思い切って捨て去る勇気を、何も持たないただの少年となって未知の厳しい修行の道へ踏み出す勇気を、あのときの自分は持ちあわせていなかった。
だから、これからは
守るために、捨てるのだ。
この身の自由と引きかえに捨てないでいることを選んだ、この国を守るために
安穏とした生活も地位も、脱ぎ去っていった弟の思いを支えるために
それを妨げる様々なものを、冷徹に切り捨てていくのだ。
それが間違っていなければ、表が出るだろう。
青年は再び、その手の中のコインを投げあげる。
きらきら、きらきら。
夜が来る。
夜が来る。
澄みきった闇の中には、まるいまるい月が皓々と輝いている。