ふと、意識が浮き上がった。
最初は、突然耳が開いたような感覚だった。だんだんと、まぶたにあたっている陽光のあたたかさだとか、座り込んでいる草の原の、さわさわゆれている感触だとか、いろいろなことに気がついて、やがて視界が明るくなる。
目に映ったのは自分の太腿だった。続けて、背中に当たっている、もたれかかった木の幹のごつごつした感じ。少し痛いので、尻をずらした。あたりの地面の、やわらかな草から水分が染み出して、てのひらをわずかに湿らせる。
手を払っていると、傍らのひとの姿が目に入る。
自分の腕を枕に折り曲げて、彼はまだすうすうと寝息をたてていた。さしかかる枝の影が、頬のあたりでゆれていて、淡いきんいろと薄墨色の境目が、散りかけた葉のかたちを描き出している。
いつの間にかバンダナを外したらしく、頬にぱらぱらと灰茶色の髪が散っている。布片をぐるぐる巻き付けた左手が、草の上に投げ出されていて、関節の目立つゆびにはいくつも、指輪。赤い石が嵌っているのと、淡黄色の石が嵌っているのと、嵌っていないのがあるのを、私は知っている。それが頬に触れるときの感触を思い出して、思わず視線を動かした。
そのひとのうすいまぶた。今はぴったり閉じられていて、ヘイゼルは見えない。すっと細い、しっかりした鼻梁、薄い唇がわずかに開いて、いきをしている。骨のかたちがはっきりとわかる顎と頬は平らかで、撫でてみればすこし乾いた感触がする。
背をかがめて、唇を寄せた。
後頭部に、日が当たる。そのあたたかさ。肩から髪が流れ落ちてくるので、押さえて、見つめる。
「……ん……??」
そのひとののどから、小さな声。まぶたを震わせて、ごくんと息をのんで、伸びをするのが見える。
「ん~~……」
ごろりと仰向けになると、伸びた右腕が、私の脚に当たる。
その手が、ごそごそと私の膝をさぐる。探り当てると、そこをつかんだままよいしょと頭を持ち上げた。
「セリス」
小さく私を呼んだかと思うと、灰茶色の頭の重みが腿にかかる。しばらくもぞもぞと、具合の良い角度を探していたらしいが、やがて動かなくなった。すぐにヘイゼルがまつげに隠れて、すう、と寝息が聞こえる。
細い、まっすぐな鼻筋。薄い唇。きっとそこはすこし乾いていて、顎は骨の形がしっかりわかって、ぱらぱら前髪がうちかかる額に触れれば、熱いほどで。
喉仏がすこし動くのが見えた。すう、すう、いきをしている。
彼の襟元がくしゃっとなっているのを直して、肩先を撫でた。厚みがあって、かたくて、幅もあって、ジャケットを貸してもらえば全く寸法が私には合わなかった、そんなことを思い出すのも不思議だ。
髪に指を通す。ぴょんとはねた毛束が手をくすぐる。焚き火を見つめる彼の前髪が炎の色を透かし、銀色に見えたことがあるのを思い出すのも不思議。
けど、そのひとの身体のどこもが、きっと何かを思い出させてくれる。
私はまた幹にもたれ、目を閉じた。ゆっくりと意識は、沈んでいく。ずっと、腿には頭の重みがかかっていた。