
白金色のぴかぴかした空気が、露天のテーブルに降り注ぐ。
流れていくのはコーヒーの湯気、パンの焼けるあたたかな匂い、バターの甘い香り、卵の焼ける匂い。
差し込むひかりの間をぬって、すっと冷たい朝の気配がたゆたっていく。
隣のテーブルに、髭の男が座った。せわしない動作でどっかり椅子に座ると、大口を開けてサンドイッチにかぶりつく。また向こうのテーブルでは、忙しそうに席を立つ女がいて、小脇に鞄を抱えながらトレイを取り上げていった。
ロックはコーヒーを啜りながら、新聞に目を通していた。いわく、今日から数日間は晴れ間が続く、だとか。ニケアからの定期便の行き先が一つ、増えたのだとか。
と、ロックのテーブルに、ことりと音を立ててもう一つのトレイが置かれる。目玉焼のオープンサンドをひとつ、ロックの方に差し出しながら、セリスは言った。
「あら、新聞?」
「うん」
セリスのトレイにサラダをひとつ置きながら、ロックは応える。
「見て、これ。ニケアからドマ便が就航したって」
「すごいわ、よかったわね。……カイエンがニケアに来ているらしいって、それかしら?」
「たぶんね」
式典とかあるだろうし、出見世とか演し物とか連れてきてるんじゃないかな、とロックは言って、ひらりと新聞のページをセリスに向けて見せる。どうやら、
『ドマ便就航を記念して、○月○日まで特設マーケット等開催! ニケア港にて』
などと書いてあるらしい。
「行ってみる?」
「そうね」
セリスはコーヒーにミルクを足して、ゆっくりとひとくち、含む。フォークを取り上げ、サラダ菜を突き刺して口に運んだ。シャクシャクとしずかに咀嚼する。
その所作を眺めながら、ロックはオープンサンドを持ち上げた。くあり、口を開けて、黄身を噛みちぎれば、とろりと中身がとろけでて、トーストの表面を流れる。指についたのを舐め取っていると、セリスが新聞を持ち上げ、記事を指さした。
「途中でこれに寄りたいわ。フラワーマーケットですって」
「あ、本当だ。こんなのも、港でやるんだな」
「トピアリーの材料は、あるかしら?久しぶりに作りたいの」
「うん。探してみよっか」
言うと、何気ない態度で、オープンサンドに取り組むセリスの手の甲を、するり、撫でた。
「……なに?」
「今日、さ」
手のかたちをたどりながら、ロックは続ける。
「ちょっと特別な日にしたいんだよな。いい感じに晴れてるし、お前が行きたいところ、行ってさ、面白いものとか変わったものとか、見てさ」
オープンサンドの皿をひきよせる、その爪のみじかい指先にするする触れながら、ロックは続ける。
「帰ったら、けっこう遅くなるだろうな。そしたら、」
「そうしたら?」
「……昨夜の続き、な」
低めた声でささやかれ、セリスの耳朶には赤みが差した。が、唇をとがらせながらも小さな声でしっかりと返す。
「……受けて立つわ」
「よろしく」
にかっと笑ってみせ、ロックはサラダの残りをもしゃもしゃと噛んだ。コーヒーをぐっと飲み干すと、セリスもちょうど、オープンサンドの最後のひとくちを片付けたところだった。視線で食事の終わりを確かめ合う。
立ち上がってトレイを持ち上げながら、ロックはセリスに向かって、もう一度笑いかけた。
「改めて、もう一回。……誕生日おめでとう、セリス。いい日にしような」
(2023.3 セリス誕)