俺は、すべてをお前に奪われたのだ。忘れるな。
俺は、親も兄弟も――お前の業火から生き延びた、たった一人の妹と弟たちすらも――お前に奪い去られたのだ。忘れられてたまるものか。
俺は、自ら望んで、自分の肉体をお前に与えたのだ。お前は俺を犯したと思っているだろうが、俺はあのときすでに、すべてを……お前に捧げてみせると誓ったのだ。
恨んでいるだと? そんなことはない。仇であろうが忌敵と呼ぼうが、お前が今の、俺の世界のすべてだ。
あのとき――俺が怪我と熱にうかされながら目覚めたとき。俺の拠り所の洗いざらいを、何もない荒野に帰せしめたお前が、お前だけが――俺の目の前に独り、立っていたじゃないか。
この世の一切を見下したような目で。あまねくこの地上のものが、片手でつかめるものであると言わんばかりに。
そのとき、そうだ、俺はお前にすがりつき、お前を見上げ、慰みを与えるため衣装をはぎ取り、お前の部分を咥えこみながら思ったのだ。
この世は取るに足りないものだと。
昔の俺が、永遠に穏やかに、このままの形で在ると思っていたこの世界は、まったく塵芥のような、些末なものだったと。
お前は俺の故郷を滅ぼした。襤褸布を火に投げ込むのと同じように、お前は村村に火を放った。野の花を踏みにじり、湖を干上がらせた。
それと同じくらい、お前は自分の帝国さえも、泥の水たまりにねじ伏せ、絞り上げる。
生きるものたちのせせこましい世など、お前にとっては力で封殺するほどのものでもない。猫が蝶をもてあそび、なぶり殺す程度のものだ、玩具にもならぬ。
もしもこのまま、お前が世界のすべてを強権で覆うことになったら、このたわいない地上のものたちは、どんな顔で沈黙するのだろうか?
俺は親も友人も兄弟も、お前によって戮された者だ。お前の所行を見届ける――そのために、お前にとってなくてはならぬ存在に成り上がるのに、俺ほど相応 しい者はいないだろう。お前の右に馬を控え、お前の見るものをすべてともに見ることができる、そんな力を勝ち取る。……生き残ってやる、何だってしてや る。武の技をみがき、知力を研ぎすませ、お前が無防備に背中をさらす、そんな存在に成り上がってやる。怖いものは何もない。俺は失うものなど、この身以外 何一つ持っていないのだから。
そのために。
お前を、俺を、邪魔するものは、すべて叩きつぶしてやろう。
万が一、俺の弟たちが彼岸から蘇り、剣先をつきつけてきたとしても、その刃がお前に届くことは決してないだろう。俺は絶対無比の盾となって、支配の力があまねくこの世の隅々まで届くようにしてやろう。
お前の力のために。